きららかに瞬き、



わたしが特になんのためらいもなく屋上へと続く扉を開けたちょうどそのとき、まさに見知った顔が大口を開いてあんぱんにかじりつこうとしているところだった。予想通りすぎるその姿にすこし呆れて、ふうと深い息を吐く。わたしが無言で彼の隣のコンクリートに腰を降ろすと、ユウジは心底嫌そうな顔で 「おまえもさぼりかい」とあんぱんをかじろうとしていたその口で言った。そうだよ悪いか。おまえは黙ってあんぱんでも食ってろ。 「言われんでも食うし、つかおまえが入ってこおへんかったらすでに食ってたし」 「はいはい。あーおなか減った」 「なにそれ、俺にあんぱんくれって要求?」 「ちがいますーわたしにはメロンパンちゃんがいるんですー」 はは。メロンパンちゃんておまえ何者やねん。と人をばかにするように笑うユウジを軽く睨んで、わたしは持ってきたコンビニの袋からメロンパンと午後ティーを取り出す。ユウジはそれを横目で見ながらおもむろにあんぱんをかじる。あんぱん。それも中央にごまのついた定番のやつ。うーん…なんかださい。それにちょっと古くさくね?いわゆる先代の置き土産というやつ。わたしはもうあんこなんか飽きてしまった。時代はメロンパンだよきみ。第一に名前がかわいらしいじゃないか。メロンの味なんて一切しないくせにメロンパンとか名付けちゃうところがまたいいよね。 「あれ、おまえそんなん言うてこないだあんぱん食うてなかったっけ?」 「 、食うてないよ」「食うてたよ つか変な関西弁使うな」 「はいはい食べたよでももう飽きたの今はメロンパンなの!」 「なんやそれ」 ユウジは愉快そうに目を細め、けらけらと軽く笑う。わたしはちっともおかしくなんかないのに。ユウジの右手にあるかじりかけのあんぱんにすまんもうおまえの時代は終わったと懺悔をして、愛しのメロンパンが入った袋を開けた。するとパァンと派手な音がして、それと同時にメロンパンの甘ったるい匂いが鼻をくすぐる。 「あ、ええ匂い」 ほらみろ。やっぱあんぱんよりメロンパンだろうが。わたしは誇らしげな笑みを浮かべながら、さっきのユウジを真似ておもいっきり口を開いてがぶりとメロンパンにかぶりついた。あーうまい。甘い。うまい。 「うまい?」 「うまい びっくりするほどうまい」 「どんな感じ?」 「甘い」 「他には?」 「えー…甘い」 「おんなじやん」 呆れたように眉根をさげるユウジの顔がすこし近づいた。てゆーか無意味につっこんでくんなよ。わたしはだって…と口をつぼむしかない。だいたいおまえはメロンパン食ったことないのか。メロンパンの味なんてそうそう変わりはしないし、広くコンビニなどで売られているこの子たちに個々の味の差なんてないに等しいだろうに、どんな感じにうまいかと聞かれても困るんだけど。甘くてうまい。それでいいじゃん。 、ひとくちくれ」 「は?おまえ喧嘩売ってんのか」 「ええやんかーひとくちくらい」 「じゃああんぱんもひとくちちょうだい」 「ええで」 ほら、ユウジがそんな動作でかじりかけのあんぱんをわたしに差し出した。わたしは黙ってそれを受け取って、代わりにユウジにメロンパンを手渡す。あああ…わたしのメロンパンが、 「…ちょ、なんでそんなこっち見よるん」 「え、だってなんか心配なんだもん」 「おまえどんだけ食い地はってんねん」 「だってさあ」 そんな見られると食いにくいねん、とかなんとかぶつぶつとこぼしながら、ユウジは約束通りひとくちメロンパンをかじった。 「…間接きす」 ぽつり、なんとなく口に出したらユウジが 「は!?」 なんて顔を真っ赤にして叫ぶので、ははは、なんかおかしくって、わたしはあんぱんをおもいっきり口につめこんだ。 「あああああ!おまえ全部食うな!」 …あ、やっぱりあんぱんうまいかもしれない。




うららかに春!