街中で蓮二を見かけた。ユリちゃんといっしょだった。 ふたりは何やらお洒落なカフェに入っていき、窓際の席に向かい合って座った。ものの数分で白いコーヒーカップとわけのわからない色の液体が揺れるグラスがそのテーブルへと並べられ、ユリちゃんはひとくち飲むと満面の笑みを零して蓮二を見る。蓮二はというと頬杖をついてやさしげな視線を彼女へ送っていた。 死ね。 さてわたしがどこからその光景を見ているかというと、そのカフェの向かいにあるこの本屋からであったりする。メールを打ってみた。 「ああ、すまない、メールだ」。読唇術の真似事をするならば、こんな感じだろうか。否、ただの予想である。まったく世の中はずいぶんと進化したものよのう。あっという間に電子の塊はあいつの元へと届き、蓮二はポケットからその薄い携帯を取り出しパカっと開く。 ガタンッ。 聞こえないはずの音が聞こえた気がした。 ★ 「何、を、している」 「こんにちは」 全速力で走ってきたんだろう。テニスの試合以外でこんなに息を切らしている柳蓮二とは、なかなかのレアものである。たぶん赤也あたりは相当驚くな。写メでも撮っといてやろうか。 彼には珍しい困惑を隠しきれないようなその顔を見て、わたしは無意識ににやにやしていたのかもしれない。蓮二は怪訝そうに口を歪めた。 「コーヒー美味しかった?」 「…待て。誤解だ」 「何が?何が誤解なの?ユリちゃんとデートしてたこと?」 「だから待て、デートではない、あれは彼女が」 「知ってるーユリちゃんって幸村のこと好きなんでしょ、相談でも乗ってたの?」 「…ああ」 「ふうん。それにしてはユリちゃん気合入った格好してたね。髪ふわふわだしスカートひらひらだし」 「…」 「あっごめんねわたしジーパンにTシャツだよーアッハハハ」 「…」 「死ね。」 「!!」 ブイーンと音がして自動ドアが開いた。背後から「待て待て待てとりあえず待て。ねえ待ってってばちゃん」などと彼らしくない焦った声が聞こえたが、そんなものは無視をするに限るのだ。 本屋の前ではユリちゃんが立ち尽くしていた。「あの、柳くんは…?」ちいさな声を遮るように、脇を黙って通りすぎる。悪いが、ユリちゃんに情けはかけられない。角を曲がったところで、後ろの方から「悪いな、あいつがいないと困るんだ」という声が聞こえた。それから「お?どこだ、どこへいった…!落ち着け柳蓮二、現在午後4時、の行動パターンから予測すると…」なんていう気味の悪い声も聞こえてきたので、足取りはどこか軽くなった。
お ろ か も の は そ ら を と ぶ
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