街中で蓮二を見かけた。ユリちゃんといっしょだった。

ふたりは何やらお洒落なカフェに入っていき、窓際の席に向かい合って座った。ものの数分で白いコーヒーカップとわけのわからない色の液体が揺れるグラスがそのテーブルへと並べられ、ユリちゃんはひとくち飲むと満面の笑みを零して蓮二を見る。蓮二はというと頬杖をついてやさしげな視線を彼女へ送っていた。

死ね。


さてわたしがどこからその光景を見ているかというと、そのカフェの向かいにあるこの本屋からであったりする。メールを打ってみた。

「ああ、すまない、メールだ」。読唇術の真似事をするならば、こんな感じだろうか。否、ただの予想である。まったく世の中はずいぶんと進化したものよのう。あっという間に電子の塊はあいつの元へと届き、蓮二はポケットからその薄い携帯を取り出しパカっと開く。

ガタンッ。

聞こえないはずの音が聞こえた気がした。









「何、を、している」
「こんにちは」

全速力で走ってきたんだろう。テニスの試合以外でこんなに息を切らしている柳蓮二とは、なかなかのレアものである。たぶん赤也あたりは相当驚くな。写メでも撮っといてやろうか。
彼には珍しい困惑を隠しきれないようなその顔を見て、わたしは無意識ににやにやしていたのかもしれない。蓮二は怪訝そうに口を歪めた。

「コーヒー美味しかった?」
「…待て。誤解だ」
「何が?何が誤解なの?ユリちゃんとデートしてたこと?」
「だから待て、デートではない、あれは彼女が」
「知ってるーユリちゃんって幸村のこと好きなんでしょ、相談でも乗ってたの?」
「…ああ」
「ふうん。それにしてはユリちゃん気合入った格好してたね。髪ふわふわだしスカートひらひらだし」
「…」
「あっごめんねわたしジーパンにTシャツだよーアッハハハ」
「…」
「死ね。」
「!!」


ブイーンと音がして自動ドアが開いた。背後から「待て待て待てとりあえず待て。ねえ待ってってばちゃん」などと彼らしくない焦った声が聞こえたが、そんなものは無視をするに限るのだ。

本屋の前ではユリちゃんが立ち尽くしていた。「あの、柳くんは…?」ちいさな声を遮るように、脇を黙って通りすぎる。悪いが、ユリちゃんに情けはかけられない。角を曲がったところで、後ろの方から「悪いな、あいつがいないと困るんだ」という声が聞こえた。それから「お?どこだ、どこへいった…!落ち着け柳蓮二、現在午後4時、の行動パターンから予測すると…」なんていう気味の悪い声も聞こえてきたので、足取りはどこか軽くなった。




お ろ か も の は そ ら を と ぶ







蓮二っていうかたけぽんになった。
相談に乗ってくれっていう体で柳くん落としちゃうぜべいびーなユリちゃんと、あれ相談って言ってたのにこれは…何か違うなと気づいたもののユリちゃんのミラクルな可愛さにまんざらでもねえ的な感じになってたら彼女から「たのしそうだね^^」ってメールが来てハッと我に返った蓮二のおはなし。