冬といえば?寒い。寒いといえば?こたつ。こたつといえば?みかん。つまるところそういうことである。

「柳みかんとって」
「嫌だ」
「なんで」
「お前の方が2.5センチ近い」
「それ絶対適当に言ってるでしょ」
「俺は寒いんだよ」
「わたしだって寒いよ」

ムカツク。広い肩をこれでもかというくらいまるめてこたつぶとんを口元までひっぱりあげている柳のせいで必然的にわたしの分のこたつぶとんが少ない。ムカツク。わたしの二の腕ぐらいまでしかこたつのあったかさを享受できていない。ムカツク。こんなことってないと思う。不条理極まりない。

「柳、ここ、わたしの部屋」
「うん」
「これ、わたしのこたつ」
「うん」
「アーユーオーケー?」
「ああ…下手な英語を聞いたら気分が悪くなった」
「お前今すぐ出ろこのこたつから出ろ今すぐにだ」

ムカツク。わざとらしくため息をついて首をふる柳にいっそう腹が立つ。ムカツク。なぐってやりたいと思ったけれどこたつから腕を出すのが億劫だったのでやめた。だって寒いもん。というかそもそもこれはひとり用のちっぽけな電気こたつであって、こんな181センチの大男といっしょに入ってぬくぬくできるような代物ではないのだ。そこのところをこいつはいまいちわかっていない。そして特に何も考えずに柳を自室に招いてしまった30分前の自分を怨んだ。わたしのバカッ。

「もういいよ自分でみかんとるもん柳の分はとってあげないもん」
「まったくお前は心が狭いな」
「柳に言われたくない。あっ寒い!こたつから出すと腕寒い!激寒い!」
「ふふ」
「ちょっと何笑ってんのむかつく」
「だって腕を出さないとみかんの皮もむけないぞ。いわゆるジレンマというやつだな」
「ええーなんかまじで柳うざい。あ、でもなんか慣れてきた。みかんむけそう」
「お、だったら俺の分もむいてくれ」
「ゼッタイヤダ」

にやにやしながら甘ったれたことを言う柳を一蹴して豪快にみかんをむいた。それから一粒くちにほうりこんだ。んまい。つけっぱなしになっているテレビの中ではとうに旬を過ぎたお笑い芸人がなんだか必死に頑張っていて、週末のムードを迎えている。申し訳ないけど少し見苦しい。

「テレビつまんないね」
「ああ」
「マリカーでもやろっか」
「お、やるやる」
「よし決まり。わたしマリオね」
「ふむ、じゃあ俺はヨッシーにする」
「あっずるいわたしもヨッシーがいい。柳はクッパにしなよクッパ」
「お前こそピーチにすればいいだろ、女の子なんだから」
「なにそれ柳きもい」
「まあこういうのは早い者勝ちだな。つまり俺がヨッシーだ」
「ええー。まあいいや、やっぱキノピオにしよ」
「ふっ…予想通りだ」
「うわうざっ」
「はいはい。あ、最初はあの水辺のコースからがいいな」
「ちょっとそれわたしが苦手なやつじゃん!柳最近マリカー覚えたくせに生意気なんですけど!」
「なかなかおもしろいよな。教えてくれてありがとう」
「ムカツク」
「…」
「…」
「…」
「ちょっと」
「なんだよ」
「なにしてんの早くファミコン出してよ」
「お前の部屋だろお前が出せ」
「関係ないでしょ柳出して」
「どこにあるのか知らないもん」
「そこだよ!そのガラス戸の中だよ見えてるじゃん」
「へえ。初めて知った」
「ちょっと!この前もそこから出したでしょ!」

見てたくせに!と口を尖らせるわたしに「知らないものは知らない」としらを切る柳がムカついたのでキックをお見舞いしてやろうとこたつの中で右足を無造作に動かした。すると柳の裸の足の甲にわたしの足の裏が当たった。ひんやりとした感触に思わず肩が跳ねる。なにこいつ、なんでこたつに入ってるくせにこんなに足つめたいの?どういうこと?冷え症なの?女子かよ。慌ててひっこめようとした右足を今度は柳の足につかまえられて鳥肌がたった。だから冷たいって。

「ちょっやめろ冷たい!柳の足冷たい!」
「お前の足すごいな、ものすごくあったかいぞ」

温度を味わうように冷たい足ですりすりされる。ちょー冷たい。逃げようともがいても狭いこたつの中では揉み合いにしかならなくて、所詮これは悪あがきで、結果的にふたりで足を絡ませあっているようなそんな状況に陥ってしまう。これってなんか、アレだ。ちょっとアレだ。
「やめて」とちいさい声を出せば満足そうに微笑んだ柳が「お、照れてる」と言った。 わたしはどうしようもなくなってその顔面めがけてみかんの皮を投げた。