わたし、ハンター試験受けるんだって言ったらガッタンと派手な音がした。見るとシャルがいなかった。何事!?って思ったけどよく見たら椅子ごとひっくり返ってるだけだった。なにやってんの。 「え…?ごめんオレの聞き間違いかな?そうだよね?」「いや何言ってんのか全然聞こえないんだけど。とりあえず起きあがろうよ」 さかさまになったままの彼の手をつかんで思い切りこちらへひっぱる。けれど意外と筋肉質のこの人は想像以上に重くてただ無意味に腕が疲れただけだった。お前いつも何食べてるの。結局自力で起き上がったシャルは乱れてしまった金髪を整えながら意味ありげにわたしを見る。なんだその目は。どういうことだ。 「いや、ちょ、ゴホッ」「大丈夫?」「いやちょっとほんと意味がわからない」「えっ大丈夫?椅子ごとひっくり返ってたもんね?大丈夫?」せっかくの労いの言葉も聞こえないのかシャルは怪訝な顔を崩さなかった。口をもぐもぐさせながら言ったせいだろうかもぐもぐ。あーパフェ美味い。でもわたしっていつもこういうのきれいに食べられない。いちごとか生クリームとかアイスとか、均等に食べてるつもりがついがっとコーンフレークゾーンにスプーンをぶっ差しちゃって全体のバランスが崩れるイコールぐっちゃぐちゃになる。今日頼んだのは最近お気に入りのマンゴープリンパフェだったはずなのに、なんかもう今では薄茶色だよ。どういうこと?どうやったらパフェってきれいに食べれるの? 「ゴホン」「あ、落ち着いた?」「いーい、落ち着いて話をしよう」「落ち着くのはシャルだけでしょ。わたしはずっと落ち着いてるよ」「うるさい」「ごめんなさい」 …。それからというものシャルがしつこい。どれくらいしつこいかというと顔を合わせるたびに「ほんとにハンター試験受ける気なの」とか「無理だよには絶対無理」とか「開始5分いや会場にたどり着く前に死ぬねむしろ家出た瞬間に死ぬね」とか「死にたいんなら別に止めないけど死にたいの?もうパフェとか食べられないよいいの?ねえいいの?」とかねちねちねちねち言うくらいしつこい。正直うざい。挙げ句の果てにわたしのハンター試験受験がいかに無謀な自殺行為であるのかについて考察・検証した長いレポートをもらった。いらねえ。 「心配してくれるのは有難いけどさあ…シャルってそんなキャラだっけ」「なにそれ」「他人に興味なさそうじゃん」 例によって例の如く薄茶色になったマンゴープリンパフェを口いっぱいにほお張りながら言う私にシャルはいつまでたっても三角形の面積を求めるときに÷2を忘れてしまう応用力も記憶力もない子供を見るような呆れ返った目をして深いため息をついた。それから少し目を伏せて「だからだよ」と言った。金髪からのぞく耳がほんのり赤い気がする。なに純情ぶってんだこいつ。生憎わたしはパフェを食べることに忙しかったので「ふうん」とだけ返した。そしたら「聞いてないだろ」と怒られた。そんなことないよちゃんと聞いてるよ。

(ひみつごっこ)